歩いて楽しむ酒③~コニャック―極上のブランデー産地(仏)~

世界三大コニャック・メゾン、マーテル社と小さな蒸溜所ギィ・ピナールの見学記。

メインビジュアル:歩いて楽しむ酒③~コニャック―極上のブランデー産地(仏)~
高級ブランデーの代名詞「コニャック」は産地名でもあります。ワインの名産地ボルドーから北へ120kmほど、車でおよそ2時間です。ボルドーからはコニャックの蒸溜所を巡る日帰りバスツアーも出ているので、ワインの旅に組み込んでみてはいかがでしょうか。

歩いて回れるコニャック・メゾン

コニャックの人口は2万人ほど、百年戦争では英仏で領有を争った要塞都市でもあり、石造りの古い街並みが残っていました。中心部を流れるのはかつて酒を船で運び出したシャラント川です。川沿いにある「ヘネシー」の蒸溜所は、一八世紀の工場を公開しています。「マーテル」や「レミー・マルタン」の本社も近く、世界三大コニャック・メゾンを徒歩で回ることができます。いずれも見学プログラムを用意していますが、今回はマーテル社を見学してみました。
コニャックはシャラント川の水運を利用して出荷された
コニャックはシャラント川の水運を利用して出荷された
町ではコニャック・メゾンへの案内があちこちにある
町ではコニャック・メゾンへの案内があちこちにある
少々武骨な印象のマーテルの本社
少々武骨な印象のマーテルの本社
立派なゲストハウスに入ると、目に飛び込んできたのは高い天井まで壁一面にボトルが並んだテイスティングホールです。7~8mはあろうかというバーカウンターに、バーテンダーがひとり。工場をひと通り見学してここに戻りコニャックを試飲、お買い物をしてツアーが終わるという定番のプログラムです。ツアーは有料で、試飲するお酒のグレードと杯数に応じて料金が変わります。VSOP1杯を試飲するコースがもっともリーズナブルで12ユーロ(約1500円)でした。
中はお洒落なゲストハウス。広々としたロビーに素敵なバーカウンター
中はお洒落なゲストハウス。広々としたロビーに素敵なバーカウンター
見学ツアーの出発までロビーでくつろぐ。お土産物を物色する人も多い
見学ツアーの出発までロビーでくつろぐ。お土産物を物色する人も多い
見学は試飲も含めて70~90分かかり、仏語と英語のガイドが工場を案内します。1回20名ほどのユニットで、製造工程にしたがって進んでいきます。原料のブドウ品種や栽培適地は実物大の模型が用意され、蒸溜器の前ではニューメイク(熟成前の蒸溜液)の香りを試し、昔ながらの貯蔵タンクや樽が並ぶ熟成庫を抜けていきます。

雰囲気はウイスキーの蒸溜所とよく似ていますが、「コニャック」の原料はブドウであり、ワインと同様に原産地呼称制度によって品質が担保されています。コニャックと名乗ることができるのは、コニャック地方の決められたエリアで、さらにグランド・シャンパーニュ(スパークリングワインのシャンパン地域とは無関係)、ファン・ボアなど地域ごとに性格づけがされ、そこで栽培されたブドウを用いて、製法の厳格な規定を満たさなければなりません。この点が穀物である大麦を原料とするウイスキーとの大きな違いです。
コニャックはブドウが原料。見学コースには実物大のブドウ畑の模型がある
コニャックはブドウが原料。見学コースには実物大のブドウ畑の模型がある
ブランデー用のシャラント蒸溜器
ブランデー用のシャラント蒸溜器
コニャックを熟成させる樽貯蔵庫
コニャックを熟成させる樽貯蔵庫
味わいを大きく左右する樽へのこだわりは強い。樽づくりの工程をしっかり見せていた
味わいを大きく左右する樽へのこだわりは強い。樽づくりの工程をしっかり見せていた
味わいを大きく左右する樽へのこだわりは強い。樽づくりの工程をしっかり見せていた

コニャックもブドウ畑から

コニャックがワインと同様に農業と強く結びついた酒であることを理解するには、自らブドウを栽培する小規模なメーカーを訪ねるといいでしょう。「ギィ・ピナール」はコニャックの町から西へ20km、フーシニャック村にある蒸溜所です。1969年にオーガニックでのブドウ栽培、コニャックづくりに取り組んだこの分野のパイオニアです。訪ねるには車をチャーターするしかありませんが、足を運んだ価値は十分でした。

途中なだらかな丘に伸びる道の両側には、ブドウ畑と麦畑が延々と広がっています。日本ではこうした景色は北海道にあるくらいでしょうか。6月の強い日差しを浴びたブドウの緑がそよぎ、黄金色の麦が波打ちます。 蒸溜所は小さな集落の一画にありました。町を歩く人はほとんど見かけない田舎町、門をくぐると蒸溜所は思いのほか広く、ショップを併設した事務棟、納屋のように見えたのがコニャックをつくる工場でした。
ギィ・ピナール蒸溜所はのどかな田舎町にひっそりとあった
ギィ・ピナール蒸溜所はのどかな田舎町にひっそりとあった
挨拶を済ませると社長のピナールさんが、直々に案内してくれました。真っ先に向かったのはブドウ畑で、敷地の裏に広がっています。コニャック用のユニ・ブラン種は酸味が強くワインには向きませんが、コニャックにはピッタリのブドウです。ピナールさんは春から夏の間はオーガニック規格でブドウ栽培に取り組み、9月に収穫してワインを醸し、12月ごろから2ヶ月間は土日も休まずに蒸溜にかかりきりになるそうです。できた蒸溜液はフレンチオークの樽で熟成し、『ギィ・ピナール』ブランドで販売されます。フランス国内のほか日本にも輸出されていて、バーや個人のコニャックの愛好家から強い引き合いがあるとのことでした。
工場の裏手にはブドウの自社畑が広がっていた。同社はここで極力農薬を使わずに栽培している
工場の裏手にはブドウの自社畑が広がっていた。同社はここで極力農薬を使わずに栽培している
社長自身がシャラント蒸溜器で蒸溜する
社長自身がシャラント蒸溜器で蒸溜する
フレンチオークの樽で熟成
フレンチオークの樽で熟成
貯蔵年数が長くなるほど液色がどんどん濃くなる
貯蔵年数が長くなるほど液色がどんどん濃くなる
コニャックでは同社のような小規模の蒸溜所は少なくなく、オーガニックでつくるところも約15社あるそうですが、自社のブランドで商品化するところはわずかです。多くは大手コニャックメーカーに原酒を供給したり、熟成の若いものを食品や製菓のメーカーに調理用に販売したりしているそうで、オーガニックの場合には化粧品など香料としても引き合いがあると言います。

「コニャックもワインのように、年ごとに異なるブドウの出来で味は左右されるのか」と質問すると、意外にも返ってきたのは「重要なのはブドウの良し悪しよりも収量が多いこと」という答えでした。蒸溜するとおよそ1/3の量になってしまうのでワインをたくさん確保したいから、また収量が少なく糖度が上がったブドウはコニャックには不向きなのだそうです。

このように一緒に畑を歩き、蒸溜所を案内してもらいながら、説明を聞き質問に答えてもらう贅沢な見学の後は、試飲するコニャックの味わいが格別です。メジャーなコニャック・メゾンのゴージャスな試飲も心地よいですが、小さな蒸溜所のアットホームな見学ツアーはさらに満足度の高いものとなったのでした。
最後は垂直試飲して好みに商品を選ぶ
最後は垂直試飲して好みに商品を選ぶ

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

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※記事の情報は2018年10月7日時点のものです。
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