20代の若手バーテンダーが腕を競う、登竜門コンテスト

カクテル・コンテストには酒類メーカーやバーテンダー協会が主催するものなどさまざまありますが、今回紹介する「全国エリートバーテンダー カクテルコンペティション」は20歳以上28歳以下を対象とした若手の登竜門です。6月に開催された第30回大会をレポートします。

メインビジュアル:20代の若手バーテンダーが腕を競う、登竜門コンテスト

カクテル・コンテストは真剣勝負

バーテンダーがカクテルづくりの腕を競うカクテル・コンテストは、地区予選から始まり、全国大会、さらに世界大会まで続くものもあり、頂点を目指すバーテンダーたちは店の営業の傍らで日々腕を磨いています。

一般社団法人日本バーテンダー協会が主催する「全国エリートバーテンダー カクテルコンペティション」は、若手のバーテンダーだけが参加できる大会で、今年は6月15日に東京で開催されました。会の冒頭、大会会長の上野秀嗣さんは、来場者やスポンサー、大会の運営関係者への謝辞を述べるとともに、出場選手に「皆さんは大会に出られなかった方々を代表してここにいる。そのことを忘れずにしっかり演技してほしい」と挨拶しました。
予選を勝ち抜いた56名と大会会長の上野秀嗣さん
予選を勝ち抜いた56名が壇上に並ぶ。中央は大会会長の上野秀嗣さん

競技は大きく3つの観点から審査されます。1つは選手が考案した新作カクテルの評価です。創作意図やネーミング、独創性などを競います。

2つ目は技術審査です。選手は壇上で決まった時間内(6分間)に5杯分のカクテルをつくります。シェイキングやガーニッシュ(カクテルに添える飾り)の添え方など技術的な側面に加えて、スムーズな動作の流れや所作の美しさを競います。

3つ目がカクテルの味わい評価です。審査員は香りの良し悪しや、創作意図が香味に反映されているかなどを見極めます。
3人が壇上に上がり、「開始」の合図で同時にカクテルをつくり始める
3人が壇上に上がり、「開始」の合図で同時にカクテルをつくり始める
カクテルを作る競技者
材料の配分や提供量が正確であるだけでなく、最初からつくり終わるまで美しさが求められる。緊張で手の震えが止まらない競技者も少なくない
技能審査席はステージの正面に設けられ、カクテルをつくる選手の一挙手一投足を厳しくチェックする
技能審査席はステージの正面に設けられ、カクテルをつくる選手の一挙手一投足を厳しくチェックする
できあがったカクテルはすぐに香味審査席に運ばれる
できあがったカクテルはすぐに香味審査席に運ばれる
香味審査席では運ばれてくるカクテルを丁寧に味わい評価する
香味審査席では運ばれてくるカクテルを丁寧に味わい評価する
演技が終了するたびにボトルやグラスを片付け、次の選手の材料をセットするのは、このコンテストを卒業した先輩バーテンダーたちだ
演技が終了するたびにボトルやグラスを片付け、次の選手の材料をセットするのは、このコンテストを卒業した先輩バーテンダーたちだ

休憩時間に楽しい試飲が待っていた

ヒリヒリした空気が漂う競技会は半分終わったところで休憩が入ります。会場の外のホワイエには日本バーテンダー協会の賛助会員である酒類メーカーやインポーターがブースを出展し、来場者に試飲をすすめます。出場選手の応援に駆け付けた同僚や友人たちは興味を持った商品を試し、和やかな雰囲気です。

出展者にとっては熱心なバー関係者におすすめの商品を直接アピールできるまたとない機会です。カクテルの素材として利用につなげようと商品説明にも熱が入ります。
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麦焼酎「いいちこ」の三和酒類は新発売のバー向け麦焼酎『iichiko彩天』をアピール。今秋、この商品を冠したカクテルコンペティションも開催する
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「リノマト」は人気急上昇中の「マンチーノ・ヴェルモット」のアマーロ・ラインアップ。こうしたリキュールをアピールするブースが多いのはカクテル・コンテストならでは
ホワイエにはすべての出場選手の作品が並べられる
ホワイエにはすべての出場選手の作品が並べられる。カラフルなカクテルは見ているだけで気持ちが明るくなる

優勝は西舘拓史さん(東京・BAR保志MonsREX)、作品は「Regulus レグルス」

競技開始から約4時間、ホワイエから戻ると、競技会場は結果発表後に行われるパーティースタイルに切り替わっていました。

表彰式が始まるとステージ下に全選手が揃い、空気が一気に張り詰めます。上野大会会長が再び壇上に立ち、「技術の確かさに加えて所作の美しさを追求してほしい」と講評を述べました。さらに続けて「今日は同じ志を持った者が全国から集まっている。懇親会では近しい人とだけでなく、ぜひとも新しい人たちと交流して仲間をつくってほしい。必ずや人生を豊かにする人脈になっていく」とネットワークづくりを強くすすめました。ご自身の体験から出た言葉であり、優勝を目指し、忙しいなか修練を重ねるバーテンダーたちの多くが実感していることなのだと想像します。
演技を終えた出場選手たちはステージ前に整列し、結果の発表を待つ
演技を終えた出場選手たちはステージ前に整列し、結果の発表を待つ
講評を述べる上野秀嗣大会会長は、「レシピが崩れたり、瓶の口の拭き上げが不足していたりするなど難点もあったが美しく見せる所作を大切に」とアドバイス
講評を述べる上野秀嗣大会会長は、「レシピが崩れたり、瓶の口の拭き上げが不足していたりするなど難点もあったが美しく見せる所作を大切に」とアドバイス

結果発表は「ブロンズ賞」10名から始まり、「シルバー賞」5名、「ゴールド賞」3名と表彰が続きます。悦びで顔がほころびホッとする一方、グランプリではなかったことに残念な気持ちを抱く方もいたことでしょう。

続いて「ベストネーミング賞」「ベストテイスト賞」「ベストテクニカル賞」という特別賞を発表。その後、総合第3位は若田優花さん(大阪・CRAFT ROOM)、準グランプリは三浦賢祐さん(愛媛・Bar MIYAO)と発表されました。

そして最後に名前を呼ばれたのは西舘拓史さん(東京・BAR保志MonsREX)でした。「Regulus レグルス」で見事にグランプリを獲得しました。この作品で西舘さんは「ベストネーミング賞」と「ベストテイスト賞」も受賞しており、創作したカクテルの作品性が高く評価され、グランプリの獲得につながったようです。

カクテルを出す店はたくさんありますが、カクテル・コンテストを目指すバーテンダーはひと握りです。全国エリートバーテンダー カクテルコンペティションを足がかりに、経験と知識を獲得して創作力を高め、日本のバー文化を豊かにしていってほしいと思います。
中央が西舘拓史さんの作品「Regulus レグルス」
中央が西舘拓史さんの作品「Regulus レグルス」
西舘拓史さんのエントリーナンバーは3番。最初の演技者の3人のうちのひとりとして登壇した
西舘拓史さんのエントリーナンバーは3番。最初の演技者の3人のうちのひとりとして登壇した
西舘拓史さんには上野秀嗣大会会長から表彰状とトロフィー、優勝メダルが授与された
西舘拓史さんには上野秀嗣大会会長から表彰状とトロフィー、優勝メダルが授与された

※記事の情報は2025年7月3日時点のものです。

  

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