歩いて楽しむ酒⑨ 食と酒のテーマパーク「FICOイータリー・ワールド」
レストランとショップを融合した「グロサラント業態」のトップランナー「イータリー」。2017年11月にボローニャにオープンした、食のテーマパークというべき「FICOイータリー・ワールド」をレポート!
世界最大オンリーワンの「食」売場
所在地はイタリア北部の都市のボローニャ。エミリア・ロマーニャ州の州都で、ボローニャ大学はガリレオやダンテも在学した欧州最古の大学のひとつです。古くから交通の要所として栄え、今もミラノ、フィレンツェ、ヴェニス、ローマなど主要都市に特急列車で1~2時間で行けます。ただ、目玉になる観光資源がなく通過駅になりがちです。世界中から観光客が集まるイタリアで、同市の観光開発は長年の課題でした。また、ボローニャには周辺地域の拠点となる大きな果実・青果の市場がありましたが、大型量販店やイタリア生協による生産農家との直接取引が進み、梃入れが必要になっていました。
そこで浮上したのがFICOを建設し、イタリアの食文化振興の拠点とする構想です。イータリーとイタリア生協が共同出資して、イータリー・ワールドという運営会社を設立、ボローニャ市は旧果実・青果市場の建物と土地を無償に近いかたちで提供し、鉄道会社と旅行会社もパートナーとして参画、食育を担う機関として国からの支援もあると言います。イータリー側は出店する業者を選定し、FICOとしておこなうセミナーやイベントの推進、広報、マーケティングなどのスタッフ業務を担当するほか、売場の一画に他のショップと並列で出店した直営売場を運営します。
40の工場が出店する食&酒売場
FICOには、チーズ、加工肉、パスタ、ソース、フルーツ加工品、ドルチェ、オリーブオイル、バルサミコ酢、ワイン、ビールなどの伝統的な製法を守る生産者が、見せる工場とショップ、飲食の場を備えて出店しています。ブルワリーやワイナリーなどの加工工場は40にのぼり、飲食できる施設はテイクアウトだけの店も含めて45を数えます。 まさに食のテーマパークと呼ぶのにふさわしい内容でが、多くの人が気軽に来場できることを優先して入場料は無料です。
ワイン売場にはワイナリー&レストラン&シアター
ワインの売場はイタリアの大手ワイン生産者のチェビコ社(CEVICO)によるものです。同社は地元エミリア・ロマーニャ州で1950年代前半に始まった、ワイン生産者協同組合が前身。土着品種であるサンジョヴェーゼ種やトッレッビアーノ種のワインを広くつくっています。FICOの屋外にある模擬農園ではブドウ畑もあり、イタリアで栽培されている主要なブドウ品種が植えられています。なお、店内のワイン醸造設備では実際にワインがつくられていますが、原料ブドウは外部から調達しておりFICOのブドウ畑は、品種を見せるだけのためのものです。
「バラデン」のイタリアン・ビア・ワールド
ショップにはバラデン社以外のクラフトビールも豊富に揃えられています。メーカーが醸造所までつくりながら他社の商品を販売しています。陳列はワインと同じく産地別です。他社のビールも上手に扱えるのは、バラデン社がクラフトビールをリードし続け、他のイタリアのクラフトビール・コミュニティの中核となっているからできるのでしょう。
大きな構想で細部を見せる
一方、出店したメーカーは工場を併設するように求められ、FICOだけで考えれば採算ベースに乗せるのは容易ではないと想像されます。にもかかわらず40ものメーカーが、出店を決断できたのは、海外に広がったイタリア料理でイタリアの食材を使うようにする仕掛けが、ビジネスチャンスになるという大きな物語が共有されているからでしょう。
そしてFICOで特に魅力的だったのは、工場で黙々と食品をつくりだす人々の姿です。チーズをつくる人は見物客に笑顔を見せながらも、何度もミルクの温度を図り、タイミングを逸せぬよう真剣な面持ちで仕事に取り組んでいました。別の工場では、小さなラビオリを黙々と包み続けるのを、大勢の人が飽きずに長いこと眺めていました。食品はそのままではただの「モノ」です。おいしいとか体にいいとか、まじめにつくっているなどの説明しかできません。そこに何からできるのか素材を示し、つくる人の「心」を添えて見せることで、人々に食べたい(飲みたい)という気持ちが湧きあがります。大きなフレームで考え。つくり手の想いを「見える化」すること。FICOの事例から、我々はこの点を学ぶべきではないでしょうか。
※記事の情報は2019年1月8日時点のものです。
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