35年前の日本酒にトライ!「つくば科学万博記念」のミニチュアキットを飲んでみた

今から1985年に開催された「科学万博つくば」。この時に販売されたと思われる茨城県のお酒を手に入れました。50ml入りの瓶で8本は35年たってどんな味に変わったのでしょうか?

メインビジュアル:35年前の日本酒にトライ!「つくば科学万博記念」のミニチュアキットを飲んでみた

35年間ほったらかしの酒は大丈夫?

ミニチュアの酒を集めてきたという知人から譲り受けたコレクションには、洋酒だけでなく焼酎や日本酒も。「科学万博つくば‘85」と書かれたパッケージに入っていたこのお酒もそのひとつです。無造作に衣装ケースに入れられて倉庫で眠っていたせいで、箱はだいぶ傷んでいましたが、お酒は未開栓のままで液面も下がっていません。つまり密閉状態が保たれていたわけで、飲んでも全く問題はないということです。

よく酒は古くなると酢になると言います。たしかにアルコールが酢酸発酵すると酢になるのですが、酢酸菌が混入しない限り酢にはなりません。液面が下がっていなければ、まず、おなかを壊すことはないでしょう。
20cm四方くらいのパッケージは本のように開くブック型
20cm四方くらいのパッケージは本のように開くブック型
厚みは片側だけで3~4㎝
厚みは片側だけで3~4㎝
180度開くと茨城県の地図に8つの酒蔵の位置が示してある
180度開くと茨城県の地図に8つの酒蔵の位置が示してある
中側には窓から8蔵のお酒が顔をのぞかせていました
中側には窓から8蔵のお酒が顔をのぞかせていました

35年前の一級酒はアル添&糖添

8つのお酒はどれも原料に「米」「米麹」「醸造用アルコール」「糖類」とあります。最近は糖類を添加するのは安価なお酒と見られがちですが、当時は糖類を加えて味を調えることが一般的でした。

また、ラベルには「清酒一級」と表示されています。級別制度が廃止されたのは1992年、平成になってからです。それまでは日本酒は国税庁が品質を評価して、一級や特級に相応しいと認定していたのです。

ただし一級や特級はそう表示できる代わりに酒税率が高くなります。そのため高品質なお酒をできるだけリーズナブルに提供しようと、あえて一級の認定を受けずに二級表示で発売する商品が相次ぎます。現在も発売されている『一ノ蔵 無鑑査』や『菊水 無冠帝』はそのひとつです。こうした商品は大ヒットして、級別制度そのものの見直しにつながっていきました。
ずらりと並んだ8蔵の商品。すべて今も健在
ずらりと並んだ8蔵の商品。すべて今も健在

澄んだ酒は35年間でいい感じに色づきました

それでは味わってみましょう。テイスティンググラスに順番に注いでみると、稲藁のような淡い色から、紅茶のような褐変したものまでさまざまです。中にはバニラビーンズのような黒い細かい粒が底に沈んでいるものや、白いもやもやが浮遊しているものもあります。でも、どれも異臭はなくうまく熟成したようです。
似たスペックの酒を同じ条件で貯蔵しても、色はこれだけ違ってくる
似たスペックの酒を同じ条件で貯蔵しても、色はこれだけ違ってくる
香りはどれもキャラメルやバニラのような甘い印象が最初に来ます。もちろん強弱はあり、紹興酒のような熟成香が前に出ているものと、オイリーな印象のものもあります。

味は大きく、甘みが全体をまとめているタイプ、酸味が強く出るタイプ、渋みや苦みが出るタイプに分かれるように感じました。

味のボリュームの変化もそれぞれ違いました。わぁっと大きく広がってストンと落ちたり、じわじわとゆっくり広がったり、飲み込んだ後で味わいが戻ってきたり。

日本酒好きな仲間と感想を言い合いながら飲むのが楽しそうです。

それぞれの35年の熟成は?

もう二度と飲む機会のないお酒なので、メモ代わりに飲んだ印象をひとつづりコメントしておきます。皆さんも未開栓の古いお酒を見つけたら、ぜひ、試してみてください。おもしろいですよ。
「府中誉」
「府中誉」はオレンジがかった濃い蜂蜜のような色で、白いモヤモヤが少し浮いている。香りは強い熟成香でキャラメル、黒蜜のような甘く厚みのある印象。粘度が強く弾力のあるテクスチャー。軽い酸味の後、甘味がきてオイリーな長い余韻。
 
「白菊」
「白菊」は明るいゴールドで白いモヤモヤが多く浮遊。香りはおとなしくオイリーな熟成香。粘度は「府中誉」より早く落ちる。元の酒が辛いのかスッキリした口当たりで、すこしうまみのある酸が印象的。余韻はすぐに細くなり、そのままずっと続く。
 
「月の井」
「月の井」は明るいゴールドで、バニラビーンズのような黒い粒状の澱。これまでの3つの中では香りがもっともおとなしく、「白菊」と同様にオイリーな印象の熟成香。味は苦味がベースで収斂味のある粉っぽい印象の酸が長く続く。
 
「副将軍」
「副将軍」はモヤモヤはなくバニラビーンズのような澱が少し。綺麗なゴールド。心地よい熟成香。甘さが全体をまとめて厚みのある味わい。
 
「久慈の山」
「久慈の山」はサントリー角瓶くらいのカラー。澱、モヤモヤはなし。甘味は少なくオイリーで起伏なし。
 
「君萬代」
「君萬代」はモヤモヤが下に溜まる。樽熟成焼酎くらいの色づき。香りはおとなしく。味はさらさら。後味に苦味。余韻細く長い。
 
「白鹿」
「白鹿」は濃いゴールド。モヤモヤや澱はなし。ドライな印象の熟成香。弾力のあるテクスチャー。ほどよい綺麗な酸、苦味、余韻にスパイシーさ。
 
「京の夢」
「京の夢」はもっとも褐変。濃いめのウイスキーくらい。香りはオイリーな熟成香。甘味強くあっさり。甘い余韻が続く。


※記事の情報は2021年2月2日時点のものです。

  

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

さけ通信ロゴ
  • 1現在のページ