イタリア流多人数のおもてなし! 簡単にたくさん作れるおつまみを教えてもらいました(1)

家飲みやホームパーティーの“本場”ともいうべきイタリアのおすすめレシピを教えてもらいました。

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:イタリア流多人数のおもてなし! 簡単にたくさん作れるおつまみを教えてもらいました(1)

美食の街パルマに伝わるパーティー向けのおつまみ

ある仕事がきっかけで知り合った、映像ディレクターのファビオ・ゼッドさんはイタリア北中部のパルマ出身。生ハムの生産地として有名ですが、日本で買えるイタリア産生ハムのほとんどが、このパルマ産ですよ。また、よく「パルメザンチーズ」といいますが、これはパルマの形容詞形「パルミジャーノparmigiano」が由来で、つまりは「パルマのチーズ」のこと。このようにパルマは、イタリアを代表する食材の宝庫、そしてイタリア随一の「美食の街」なんです。

そんなファビオさんにパルマのおもてなしについて尋ねてみたところ、

「今度仕事仲間のパーティーをやるからおいでよ。僕が腕を振るうからさ。パルマ伝統のおつまみを作るよ」    

と誘っていただきました。パルマ、美食の街、伝統のつまみ、手作り、と聞いたら、居ても立ってもいられません。早速、お邪魔することに。    

会場に着くと、すでにファビオさんは仕込みの最中。全身を粉でまっ白にして奮闘しているご様子。    

「今作っているのは、トルタ・フリッタ(torta fritta)だよ」    

と言うのを聞いて、私は耳を疑いました。トルタ・フリッタを直訳すると「揚げケーキ」となるからです。驚く私の顔を見るや、    

「ハハハ、トルタといっても、デザートのトルタじゃないよ。これから作る生地のことを地元ではトルタと呼んでるんだ。簡単にいえば、揚げパスタだよ」    

ファビオさん、ニヤニヤして言いましたが、それでもまだ想像がつかない私は不安げに厨房をのぞかせてもらいました。

めちゃくちゃ膨らむ! パルマ伝統の揚げパスタを作ってみた

まずは材料。 

材料

  • 小麦粉(パンやピザ用) 500g
  • 粉状のイースト菌 4g
  • 小さじ1杯
  • 白ワイン 適量
  • ぬるま湯 コップ1杯
上の材料で手打ちパスタを作るわけですね。

下準備として、イースト菌をぬるま湯で溶かしておきます。ちなみに今回のイースト菌はファビオさんイチオシのイタリア製を使用。
今回のイースト菌はファビオさんイチオシのイタリア製を使用。
次に各材料を、このようにボウルに合わせます。
次に各材料を、このようにボウルに合わせます。
小麦粉、塩、イースト菌を混ぜ合わせ、白ワインを少しずつ加えながら練っていきます。ある程度パスタ生地が固まったら、粘り気が出るまで手でこねます。
ある程度パスタ生地が固まったら、粘り気が出るまで手でこねます。
「白ワインを加えて、もし柔らかくなりすぎたら、こんなふうに小麦粉を加えてまた練り合わせればいいよ。練りながら、加減を調整すれば失敗はないさ」

とファビオさん、余裕の表情。でも、汗だく。

そしてこのような滑らかなボール状になったら、布をかぶせて30分ほど休ませます。
そしてこのような滑らかなボール状になったら、布をかぶせて30分ほど休ませます。
休んでいる間に、聞いてみました。    

「どうしてトルタ・フリッタというの? ケーキを揚げるのかと思って、びっくりしたよ」    

するとファビオさん、    

「実はこれ、一般的にはニョッコ・フリット(gnocco fritto)と呼ばれるレシピなのさ。エミリア=ロマーニャ地方の各地に見られる料理だけど、なぜかパルマでだけ同じものをトルタ・フリッタと呼ぶんだ。うーん、なんでかな…、うちのおばあちゃんに習ったんだけど、おばあちゃんもそう呼んでいたからなあ。きっとパルマは、食に関してうるさい街だから、ほかとは一味違う意味をつけたかったのかもしれないね」    

そういえば思い出したのですが、パルマでカペレッティという肉詰めしたパスタ料理をご馳走になったことがあります。ところがその料理、少し離れた地域ではアノリーニと呼ばれていました。もしかして微妙な違いがあるのかもしれませんが、こうしたことも美食の街ならではのこだわりなのかもしれませんね。    

さて、パスタ生地もいい頃合いになってきました。ファビオさん、おもむろにパスタマシーンをセットして、伸ばし始めました。おお、これを見ると、手打ちパスタだなあ、という感激が。
おもむろにパスタマシーンをセットして、伸ばし始めました。
「パスタマシーンがなければ、麺棒で伸ばしてもいいよ」    

と手際よく生地を平べったくしていくファビオさん、    

「大事なポイントは、生地を重ねて何度か伸ばすことだ。1回通しただけだと、あとで揚げたときに、膨らまないからね」    

そう強調しながら、念入りに生地を折りたたんで、マシーンに通していました。こんな感じです。
念入りに生地を折りたたんで、マシーンに通していました。
そして十分生地が伸びたら、このように長方形に切り分けます。
そして十分生地が伸びたら、このように長方形に切り分けます。
これらの小さな生地を、熱した油にそのまま投入。すると、こんなに膨らみます。
これらの小さな生地を、熱した油にそのまま投入。すると、こんなに膨らみます。
「今回は日本の市販の植物性オイルで揚げるけど、パルマではラードを使うよ」とファビオさん。うーん、そっちの方が香ばしそう。パルマで本場のものを食べたくなってきた。    

やがてこんがりと色づいたら、取り出して、軽く塩をふりかけておきます。
やがてこんがりと色づいたら、取り出して、軽く塩をふりかけておきます。
冷めたら、できあがりです。

美食の街パルマの食べ方はこれだ!

さて、ここからがパルマ流。その食べ方はなんと、これに生ハムやサラミを贅沢に巻きつけていただくのだとか。ギャー、さすが生ハムの本場。美味しい食べ方、知ってるねー。
さすが生ハムの本場。美味しい食べ方、知ってるねー。
「こんな感じっすか?」
「こんな感じっすか?」
「ペルフェット(Perfettoすばらしい)!」    

やったあ、ファビオさんにお墨付きもらいました。    

では、Buon appetito! 「いただきます!」
では、Buon appetito! 「いただきます!」
「ブオニッシモ(Buonissimoめちゃうまい)!」とほっぺも落ちそうな顔をしたのは、共通の友人のクラウディアさん。彼女は、このコラムのおなじみ指南役となっている方です。    

「私も彼と同じエミリア=ロマーニャ州出身だけど、日本でニョッコ・フリットが食べられるなんて感激。夢みたいよ」    

そう喜んでいましたが、やはり同じエミリア=ロマーニャでも、ボローニャ出身の彼女にとっては「ニョッコ・フリット」なのですね。    

さて、トルタ・フリッタを味わってみると、表面サクサク、噛めば噛むほどモッチモチ。そこにハムやサラミの潤いと塩加減がプラスされて、なんともまろやかな味わいに。パンでもなく、パスタでもなく、ポテトチップよりも味わい深い。なんとも絶妙なワインのアテになっています。    

「今日はエミリア=ロマーニャ産のコクのある白ワインを合わせてみたよ。でも、この料理はあまりワインを選ばないのさ。赤なら軽めのミディアムボディ、ロゼやスパークリングならなんだってオーケー。エミリア=ロマーニャには有名な赤のスパークリング、ランブルスコがあるけど、それも最高だね」
今日はエミリア=ロマーニャ産のコクのある白ワインを合わせてみたよ
最後にファビオさん、こんなことを。「トルタ・フリッタは仲間と絆をともにする料理さ。お祭り、収穫の祝い、そして様々なパーティー。とにかく、仲間が集まったときに、きちんとした食事が始まる前の前菜的なものとしてふるまっているよ。つまり、この料理には弱点が1つある。一人分だけ作るのは無理だってことだ」    

美食の街パルマに伝わるおもてなしレシピには、いつでも仲間を迎え入れる心が備わっているのですね。    


※記事の情報は2018年7月12日時点のものです。
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