お銚子と徳利の微妙な関係
居酒屋さんで「お銚子一本」とオーダーすると、細長い胴体に注ぎ口がついた例の容器にお酒が入って出てきます。お待たせしました、はい、お銚子でーす! と、テーブルにコトっと置かれるお酒の容器、徳利ともいいますね。私たちの認識では、お銚子と徳利は同じもの。しかし、本来は別々のものでした。
三三九度のアレ
もともと、お酒を杯に注ぐための「お銚子」という酒器は平安時代からあるのですが、その形はこんな感じ。これが本来のお銚子の姿です。
そう、オリジナルお銚子は、神前結婚式の三三九度の盃にお酒をそそぐ、アレと同じものです。お茶を淹れる急須にも似ていますね。
卓上徳利が誕生
同じ時代、お酒を入れる容器として「徳利」も存在していました。その形は、今の徳利と似ていますがサイズがだいぶ異なります。だいたい2升とか3升入るもので、お酒を入れて運搬したり、保管したりするための容器だったのです。
時代も江戸中期あたりまで下ると、各地で生活雑器の陶器が盛んにつくられるようになりました。それにともなって、現在のような小さな徳利も盛んに作られ、普及するようになったのです。これが現在でも食卓に供される「お銚子=卓上徳利」です。
お銚子で始めて徳利で終わる
オリジナルお銚子は、主にあらたまった酒席で用いられたようです。まずはお銚子と杯でお酒を飲み始め、そのうち座がゆるんでくると、徳利とお猪口に切り替えて飲み進めたとか。さらに時代が下るにつれ、最初っから徳利でいいじゃん、となったようです。なんにせよ、物事はラクチンな方へと流れていくんですね。しかも、徳利ならそのままお燗もつけられます。
お燗専用容器もあった
お銚子や徳利のほかに、かつてはお酒の友だったのに、今ではあまり使われなくなった酒器があります。そのひとつが「ちろり」です。金属でできた、ちょうど計量カップのような形のもの。これはお酒にお燗をつけるための専門容器でした。かつては、このちろりにお酒をいれて湯煎にしたり、囲炉裏の温かい灰に埋めてお燗をつけていたのです。こうしてみると、現在の「お銚子=卓上徳利」は、徳利の取り回しのよい形を受け継ぎ、お酒を注ぐ機能はお銚子ゆずり、そして、ちろりのお燗機能もあわせ持った、なかなかのスグレモノなのです。
※記事の情報は2017年6月14日時点のものです。