清野とおる『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑫》
「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は偏愛漫画『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』からの再現です。
奇才漫画家が世に埋もれた「おこだわり」を掘りまくる!
東京の北エリアにある赤羽という土地に魅せられ、そこで出逢ったもはや異次元な人たちとの交流や不可思議な出来事を描いた実録漫画『東京都北区赤羽』で知られる漫画家&エッセイストの清野とおるさん。その現実離れした内容とそれを引き寄せているであろう作者の人間性に惹かれ、赤羽と清野さんの大大ファンになりました。
作中に登場するエピソードの強烈さ(謎のカリスマ性を秘めたホームレスの女性が股間に何かをぶら下げながら凄い歌を捧げてきたり、UFO(?)を飛ばすおじさんと仲良くなったり、変人ホイホイのような居酒屋で有名な指名手配犯に遭遇したり)もさることながら、それを事細かに記録し、漫画に昇華させる清野さんの変質的とさえ思える好奇心の強さと緻密さが実に恐ろしく、引き込まれずにいられません。
今回取り上げる『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』でも、清野さんの好奇心力がバッチバチに発揮されています。
その対象となるのは、「おこだわり人」。清野さん曰く、日常生活とは得てしてつまらないものだが、例外的に楽しんでいる連中がいる、と。
そう、それはこんな人たち。
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [前説]より
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [前説]より
◾ここを再現
今回は第1巻に登場する2人のおこだわり人によるつまみを再現してみます。
再現レシピ① ポテトサラダと金麦
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人④ポテトサラダの男]より
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人④ポテトサラダの男]より
調子にのって飲み&食べ進んでいたら、「まだ金麦を1/3しか呑んでいないのに ポテトサラダは1/2以上も平らげてしまっている事に気付きまして」。ポテトサラダ失うまじ、と思いついた作戦がこちら!
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人④ポテトサラダの男]より
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人④ポテトサラダの男]より
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人④ポテトサラダの男]より
清野さんが「一口に『ジャガイモ』といっても種類たくさんありますよね!? なんのジャガイモを使うのか省かずちゃんと教えて下さい!!! 大切な事ですよ!!!」と詰問して白状させています。全編にわたってこのテンションでおこだわりポイントを追求しているのも見どころです。
落ちないように、つい口から迎えにいく感じで食べてみると、舐めているのか食べているのかわからない不思議な口当たりと、「餌付けされてる」感がわきあがって一瞬脳がバグったようになりました。
数回繰り返すうちにだんだん箸1本使いにも慣れ(下からすくうようにすると箸にのりやすい)、金麦に手を伸ばしてグビッと。
ライトでクセのない金麦と、プレーンなポテトサラダはたしかに相性抜群! うっすらと香るごま油がいい感じのアクセントです。ほほ〜、おこだわり人の言うことは信じてみるものですね。こりゃいい。
ポテトサラダの男はこれをひとりで楽しむだけでは飽き足らず、飲み仲間を引き込んで「八王子ポテトサラダの会」まで発足させたのだそう。この集団、なんとポテトサラダで棒倒しを楽しむという荒技を行なっていて、本編では清野さんがそこに潜入するレポもあります。気になる方はぜひご購入を!
再現レシピ② ツナ缶と氷結グレープフルーツ ストロング
妻子が寝静まった深夜に「氷結 グレープフルーツ」ストロング缶を飲むのが彼の楽しみで、それに合う理想のつまみを日々熟考した結果、ついに出た答えがツナ缶なのだといいます。
その食べ方がまた独特で……。
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人①ツナ缶の男]より
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人①ツナ缶の男]より
そうして完成(?)したツナ缶のお味は
清野とおる 講談社 『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』1巻 [おこだわり人①ツナ缶の男]より
それではさっそく再現してみましょう。材料はこちら!
過去にサバ缶ひとつで4合瓶を乾した経験のある私ですが、ツナ缶で飲むのは初めて。ちなみにツナ缶はおこだわり人の指定で「いなばのライトツナフレーク まぐろサラダ油漬」。これがなかなか手に入りにくかったんですよーーー。
この作品が描かれたのは約6年前。その間に世の中はヘルシー上等なムードが強まったのか、同社の商品もノンオイルやオイル無添加、スーパーノンオイルなどが主力になっているよう。
近所のスーパーを数軒探し回りましたが見つけられず、結局ヨドバシカメラのネットショップで取り寄せました。配達員の方、ツナ缶2個だけ運んでもらって申し訳なかったです。
代用品を買わなかったのは「ノンオイルタイプのツナ缶ではダメなのですか?」と尋ねる清野さんへの答えは「愚問です! 油たっぷりのツナ缶じゃないと話になりません!」だったから。
さらにここに
セルフスタイルでソフトクリームを巻く時と似ているようで大いに非なる感情が湧き上がります。前者のドリーミーなふわふわ気分に対し、こちらはひたすら「いいのか? 本当にいいのか?」と背中が丸まっていく感じ。やばいっす。
ほんで胡椒をこれまた「死ぬほど」かけまして……。
で、割り箸で思いっきり混ぜましたらば。
いざ、実食……っ!
うん、美味しい。胡椒のおかげで予想よりも油っこくなく味わえます。
そこへ氷結を流し込むと、マヨの余韻にグレープフルーツの苦味が加わって、お好きな人にはたまらない感じのマッチング。ストロング仕様だから、このハードコアなツナ缶と拮抗できるのかなと思いました。
ツナ缶をディップ的にするつもりだったのに気づけばキュウリと新生姜ばっかり食べていました。
だめだめ! おこだわり人の情熱を無駄にしちゃだめ! ……と思ってはいたのですが。
残念ながら、ツナ缶男さんと同じ至福感を得ることはできませんでしたが「マヨネーズは適量で」という気づきがありました。当たり前のようだけれど、このマヨマウンテンに登ったからこそ身をもって知ることができたのだと感謝しております。ありがとうございました。
***
ポテトサラダとツナ缶。どちらもごく身近なものですが、少し視点を変えるだけでこんなにディープな楽しみ方ができるものかと感じ入りました。
今夜は、自分にもなにかそんな「おこだわり」はあるだろうかと考えつつ飲んでみようかと思います。
【おまけ】
※記事の情報は2020年9月3日時点のものです。
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