酒好きほぼ100人に聞いた「飲酒ガイドラインをご存じですか?」

厚生労働省は2月に「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。アンケートで、ガイドラインが提唱する飲酒習慣に対する酒好きのみなさんの意見を聞いてみました。

メインビジュアル:酒好きほぼ100人に聞いた「飲酒ガイドラインをご存じですか?」

半数が飲酒ガイドラインを認知

過度な飲酒の抑制を図る取り組みは、世界的な規模で20年以上前から進められてきました。推進主体のひとつであるWHO(世界保健機関)は当初、飲酒は国や地域によって文化的・社会的な背景が異なるため、各々の事情に合わせて進めるとしていましたが、なかなか成果が出なかったため、各国に抑制の数値目標を出させるなど関与を強めてきました。

日本でも2000年に生活習慣の改善により健やかな生活を目指す運動「健康日本21」がスタートしました。そこでは適切な飲酒量が示され、多量飲酒者の抑制目標を盛り込まれています。
適正飲酒の10か条
国は20年以上前から適正飲酒の啓蒙活動を続けてきた
今回、厚生労働省が発表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(以下ガイドライン)」は、飲酒に特化したことで注目され、具体的な飲酒スタイルを推奨したほか、健康には酒を飲まない方がよいとしたうえで、一日の摂取アルコール量が「男性:純アルコール40グラム(日本酒2合弱、ビール約1リットル) 女性:20グラム(日本酒1合弱、ビール約0.5リットル)」以上だと健康リスクが高まるとしています。

では酒好きな方々にこのガイドラインはどれくらい知られているのでしょうか? アンケートでは「知っている(『よく知っている』と『知っている』の計)」が41%で、「知らない」も同数でした。
ガイドラインの認知

あらかじめ酒量を決めている人は6割弱

ガイドラインが推奨する飲み方の実行状況を見てみましょう。

まず、「あらかじめ飲む量を決めて飲酒する」という項目については、「しっかり決めている」はわずか2%で「だいたい決めている(56%)」と合わせても6割弱にとどまります。自身の適量をおおよそ知っていて、ある程度は決めていますが、TPOに応じてそれ以上飲むこともある方が多いということでしょう。
飲酒量を決めて飲む

週1回以上の休肝日を実践している人は53%

次に「週に1回以上の休肝日を設ける」を見ると、「必ず」と「たいてい」で53%、反対に「ほとんどしない」「まったくしない」が35%です。酒好きを自認する方でも、半分以上は週に1回以上飲まない日を作っています。
推奨される飲酒行動の実施状況
休肝日を設けている方に聞くと「つい適量以上に飲んでしまうので、まったく飲まない日を作ったほうが一週間の飲酒量を抑えやすいから」や「ずっと酒を楽しみたいので週に何日か(酒を)抜いています」などの声があがります。「休む日でも飲みたいと思う日もありますが、ノンアルビールや炭酸水を飲むと意外と満足できて、飲まなくても平気になりました」という声もよく聞くようになりました。
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ノンアルコールや微アルコールのビールはバリエーションが豊富。飲まない人と飲む人が一緒に楽しめる「スマドリバー」では微アル飲み比べセットが人気

「飲酒中に水を飲む・水で割る」を実施している人は64%

「飲酒中に水を飲む・水で割る」は「必ず(38%)」と「たいてい(28%)」で64%にのぼり、「ほとんどしない」「まったくしない」の14%を大幅に上回りました。

日本酒と本格焼酎・泡盛のメーカーでつくる日本酒造組合中央会が酒を飲みながら水を飲むスタイルを「和らぎ水」として提唱し始めたのは、今世紀に入って間もなくのこと。当初は酒場で水を持ってきてほしいと頼むと怪訝な顔をされましたが、今では黙っていても水を持ってきてくれたり、ピッチャーで用意してくれたりする酒場は珍しくなくなりました。
「和らぎ水」用の和風ピッチャーも開発された
「和らぎ水」用の和風ピッチャーも開発された

「食べながら飲む」はほぼ全員

「飲酒の前または飲酒中に食事をする」は「必ず」と「たいてい」で9割を超え、ほとんどの方が実行しています。これは当たり前だと思いますが、日本では飲酒シーンのほとんどが夕飯の時ですし、外で飲んでもおいしい酒肴と一緒に楽しんだほうが楽しいですから。
飲み比べセットにおいしい酒肴と和らぎ水が付いてくる
日本では飲み比べセットにおいしい酒肴と和らぎ水が付いてくるほど、酒&フードは定着している。於いしかわテラス(中央区八重洲)
こうしてみてみるとガイドラインが推量する飲酒スタイルは、酒好きの方々に浸透しており、適切な飲み方が普及していると言えるのではないでしょうか。

ただし、問題は次に見るように飲酒量です。今回のガイドラインがターゲットにしているのは多量飲酒者の割合の引き下げで、ガイドラインが示す適量以上に飲む人を全体の10%まで下げることを目標としています。

「ガイドライン」が出ても過半数は飲酒習慣を変えず

では、問題のガイドラインが推奨する飲酒量と普段の飲酒量の差を見てみましょう。「だいぶ多い」が40%、「少し多い」が24%で、酒好きを自認する回答者の3分の2近くがガイドラインの飲酒量を超えています。
推奨された飲酒量との比較
そして、推奨された飲酒量以上に飲んでいる方に、酒量を抑えようと思うかを聞いくと、「抑えようと思わない」が13%、「あまり抑えようと思わない」が40%と合わせて53%で、「なるべく抑える」の47%を上回りました。
推奨された飲酒量に抑えようと思うか
さらに「ガイドラインが示されたことで飲酒習慣を変えるか?」と聞いたところ、「変えない」と「あまり変えない」が合わせて63%にのぼりました。反対に「大きく変える」という回答はわずか1%しかありません。

酒好きの本音は、「週に数日、飲まない日を設け」て「あらかじめ酒量を決め」、飲酒中に「水を飲み」「食べる」ように心がけています。飲み過ぎが身体によくないこともわかっています。でも、飲む量にはとやかく言わないでくださいというところでしょうか。
ガイドラインで飲酒量を変えるか

健康管理と自己責任

最後に飲酒抑制の動きの広まりに対する意見を見てみましょう。お寄せいただいた声は大きく次の3つに整理できます。

●健康への影響に関する意見
飲みすぎは健康に影響を与えるため一定の抑制が必要だという意見と、個人差があり自己責任だという意見が併存しています。

「お酒の影響は理解できますので、ガイドラインがあるのは良いと思います。気にする人やこれから飲み始めようとしている人と周りがちゃんとコントロールできるようになると思うので。とはいえ規制するようなものはあまり歓迎できません(ガイドライン程度であれば〇)」(女性・30代)
「アルコールは耐性の個人差も大きく、一概に規制するべきものでもないと思います。ただその一方でアルコールに日常的に接している人ほど、アルコールが身体にどんな作用をするか、継続的に飲むことで何が起こるか知らない人も多い。ガイドラインを設定することで、そうした層の何%かには届く可能性がある。それだけでも今回のガイドライン策定自体に意味はあると考えます」(男性・50代)
「アルコール依存症は本人だけではなく家族にも多大な影響を及ぼす。いっそ煙草のように税率を上げたり、販売規制を強化したりすることを検討する機会ではないか」(女性・60代)

●文化・社会的影響に関する意見
酒は文化でありプラスの側面も見るべき、抑制しすぎると文化が失われるという意見の一方で、多くがアルコール依存症などの社会問題の抑制の必要性を認めています。禁止は論外だが、適切なガイドラインや啓蒙活動は必要などの声です。

 「世界的にある程度予想はされていた流れかと思いますし、まずはアルコール摂取量を目安にするのは理解ができます。次は酒の文化的な価値や意味を伝えていく必要があると思います」(男性・30代)
「たばこの次は酒だと言われてきて本当にそうなってきたと思っています。業界としてはお酒の文化的・社会的価値を訴求すると同時に、不当な言いがかりには敢然と立ち向かってほしいと期待しています」(女性・50代)
「健康を害する飲み方や粗悪な酒類への注意喚起や教育的周知は必要だと思う。一方、お酒は、その国の歴史であり文化でもあるので守っていくものだと思う。酒=悪い物=抑制の流れは進んでほしくない」(女性・50代)

●個人の自由や選択に関する意見
飲酒は個人の自由であり、強制的に抑制すべきではないという意見も寄せられました。

「嗜好品は各自の判断なので、わざわざ政府レベルで抑制する必要はない。ただ飲みたくない時に相手に使えるガイドラインはあってよい」(女性 ・40代)
「飲酒に伴う科学的なリスクは、それが真に信頼に足るものであることを確認した上で公的に公表はするべき。後は個人の問題であり、嗜好品なので各人が判断すべきと思う」(男性・60代)

●その他の意見
「妊娠を機にお酒を止めました。それまではかなりの飲酒量でしたが、妊娠ということですんなりと止められました。お酒を飲まなくなって感じたことは、飲めない人向けのノンアルコールが少ないこと。最近、缶製品は徐々に増えてきていますが、外食やイベント等ではまだまだ少なく、ノンアルコール=ソフトドリンクです。家の外でもクオリティの高いノンアルコールや微アルコールが増えれば抑制に繋がると思います」(女性・40代)

【調査概要】
サンプル数 353人(酒好きな方)
調査期間 2024年4月
調査方法 ネットアンケート調査


※記事の情報は2024年4月18日時点のものです。

  

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