八海山がニューヨークからSAKEを輸入開始

新潟を代表する銘酒「八海山」で知られる八海醸造株式会社(南魚沼市)は、業務資本提携するニューヨークの酒蔵ブルックリンクラのSAKEを4月から日本で販売を開始します。また、自社で製造する主原料に米を使ったウイスキーをバーシーンに投入します。

メインビジュアル:八海山がニューヨークからSAKEを輸入開始

ニューヨーク生まれのSAKEの輸入と米で造ったウイスキーのリリースを発表

八海醸造株式会社は3月に都内ホテルで会見を開き、ブルックリンクラのSAKEの輸入と「Hakkaisan シングルグレーン 魚沼8年 ライスウイスキー2025LIMITED」の発売を発表しました。冒頭に南雲二郎社長は次のように挨拶しました。

「『永遠に終わらない会社』をテーマに掲げ、常に挑戦し進化してきた。希少性から脱しておいしいお酒を日常的に提供できるようにしたり、地元の魚沼の観光振興に取り組み年間30万人にお越しいただけるようにしたりしてきたのはひとつの例だ。

ニューヨークでSAKEを造るブルックリンクラと出会い、かねてから考えていた『日本酒を世界酒に』するためには、彼らと一緒に進むべきだと判断し2021年に業務資本提携を結んだ。日本人ではなく現地の人が地元の水や米でSAKEを造ることが世界酒になるためには重要だからだ。

また、ウイスキー造りに取り組み始めたのはずいぶん前だが、ようやく米で造ったグレーンウイスキーをリリースできた。これからも常に革新できる八海醸造グループを目指す」
創造的破壊という言葉が大好きだという南雲二郎社長
創造的破壊という言葉が大好きだという南雲二郎社長
日本で販売されるブルックリンクラの3商品。左から「キャッツキル」(アメリカ産山田錦100%・精米歩合50%)、「グランドプレーリー」(アメリカ産酒米100%・精米歩合60%)、「オクシデンタル」(SAKEにホップと赤ブドウ濃縮果汁を加えたリキュール規格)
日本で販売されるブルックリンクラの3商品。左から「キャッツキル」(アメリカ産山田錦100%・精米歩合50%)、「グランドプレーリー」(アメリカ産酒米100%・精米歩合60%)、「オクシデンタル」(SAKEにホップと赤ブドウ濃縮果汁を加えたリキュール規格)
会見では3つのお酒がペアリングコースとして提供された
会見では3つのお酒がペアリングコースとして提供された。特に驚いたのは「オクシデンタル」。ロゼワインのような薄いピンクに、ホップが漂いブルーチーズとはちみつのデザートピザによく合った

ニューヨーク発の酒蔵ブルックリンクラとは?

ブルックリンクラの創業は2016年。日本酒好きだったブライアン・ポーレン氏とブランドン・ドーン氏が意気投合してニューヨークのブルックリン地区でSAKEを造り始めました。情報発信力の高いニューヨークにSAKEブルワリーが誕生したことは日本の酒蔵の間でも話題になります。仕事でニューヨークに行った酒蔵たちはブルックリンクラを訪ね、シンプルな設備でSAKE造りに真摯に取り組む彼らから刺激を受けて帰国したのでした。

当時のブルックリンクラの酒はまったく洗練されていなかったはずです。酒造りの経験も知見も乏しく十分な設備もなかったうえに、海外でのSAKE造りにはさまざまな制約があるからです。日本では酒造り用の米を容易に入手できますが海外にはありませんし、家庭用の精米機しかないので、米の外側を1割ほど削るのが精いっぱいです。おいしい酒を造るために日本で開発されたさまざまな素材や道具の多くを利用できません。

八海醸造との業務資本提携はこれらの制約のいくつかをなくしました。2023年にブルックリンクラは新しい醸造所を造りましたが、八海醸造から醪(もろみ)の搾り機(どろどろの発酵醪を酒と粕に分離する機械)やパストライザー(加熱殺菌した酒を急冷する装置)などを譲り受け、稼働させたのです。加えて技術的なアドバイスによって酒質が格段に上がったことは疑いありません。

そのほか新しい醸造所には小学校の教室ほどのセミナールームが設けられ、レストランやバーなどプロフェッショナル向けから一般の愛好家向けのカリキュラムが提供されます。講師は酒サムライのティモシー・サリバン氏です。
創業者のブライアン・ポーレン氏(左)とブランドン・ドーン氏(中)。右はティモシー・サリバン氏
創業者のブライアン・ポーレン氏(左)とブランドン・ドーン氏(中)。右はティモシー・サリバン氏
新潟の八海醸造から運ばれたSAKE搾り機(2023年9月撮影)
新潟の八海醸造から運ばれたSAKE搾り機(2023年9月撮影)
建設中のセミナールーム
ティモシー・サリバン氏は建設中のセミナールームで「ここでSAKEセミナーを開いてSAKEのファンをどんどん増やしていきたいんだ」と抱負を語った(2023年9月撮影)

アメリカでのSAKE普及事情

ここでアメリカでのSAKE造りの足跡を確認しておきましょう。SAKEをアメリカで最初に造ったのは日本からの移民でした。彼らが自家醸造で造り始め、1908年にはホノルルで酒蔵が開業しました。その後、1980年代前半に日本食の広まりに呼応するように、日本の酒造会社が西海岸に酒蔵を建設し進出します。そして、すき焼きや鉄板焼き、スシバーで超熱燗のホットサケが提供されるようになりました。

2000年ごろからプレミアムSAKEとしてフルーティーな吟醸酒を冷やして楽しむスタイルがアメリカに登場します。この頃からレストランシーンではフレンチやイタリアンなど国際的な西洋料理が和食の影響を受け、生魚を使ったり、素材の味わいを生かす調理法を採用したりしたフュージョンといわれる業態が注目されて行くのですが、プレミアムSAKEはフュージョンレストランで提供されるようになります。
和食を出すイタリアンやフレンチでSAKEが広がった(2011年撮影)
和食を出すイタリアンやフレンチでSAKEが広がった(2011年撮影)
その一方でビールの自家醸造が盛んなアメリカでは、自宅のガレージに備えたビールの醸造機器を使って見様見真似でSAKEを造る人たちが出てきます。中には事業として立ちあげる人もいて、各地に少しずつSAKEブルワリーが誕生していきました。こうして誕生した醸造所は今では北米に60以上を数え、2019年には「Sake Brewers Association of North America(日本名・北米酒造組合)」が誕生しました。
シアトル郊外でSAKEを造っていたCeder Sake調理用やクラフトビール用の機材を流用し、麹菌は味噌麹を使っていた(2014年撮影)
シアトル郊外でSAKEを造っていたCeder Sake。調理用やクラフトビール用の機材を流用し、麹菌は味噌麹を使っていた(2014年撮影)
Ceder Sakeの醸造所は一般住宅の半地下のガレージ
Ceder Sakeの醸造所は一般住宅の半地下のガレージ(2014年撮影)

八海醸造から本格的シングルグレーン・ライスウイスキー登場

ところで八海醸造は2016年にウイスキーの製造免許を取得しています。この年は本坊酒造のマルス津貫蒸溜所(鹿児島県)、笹の川酒造の安積蒸留所(福島県)、堅展実業の厚岸蒸溜所(北海道)、ガイアフロー社の静岡蒸溜所(静岡県)など国内のウイスキーのクラフト蒸留所が相次いで稼働した年でした。以降、ウイスキー蒸留所は参入ラッシュの様相を呈します。ジャパニーズウイスキーを名乗るには3年以上熟成が必要なため、少しでもキャッシュフローを改善しようと、多くの蒸留所が未熟な原酒をニューメイクとして発売したのでした。

そんななか八海醸造は辛抱強くウイスキーの熟成を待ち、今年初めて商品化に踏み切りました。「Hakkaisan シングルグレーン 魚沼8年 ライスウイスキー2025LIMITED」です。特徴は何といっても原料の7割に米を使っている点です。モルトと米で造るウイスキーは、米と水と発酵にこだわり続けた八海醸造のプライドをかけた商品とも言えるでしょう。初リリースのこの商品は製造数量が少ないこともあり、バー向けに限定して販売されます。
蒸留器は焼酎で使用する単式蒸留器を使い、納得できる味わいを求めて8年間貯蔵熟成させた
蒸留器は焼酎で使用する単式蒸留器を使い、納得できる味わいを求めて8年間貯蔵熟成させた
米をモチーフにしたラベルデザインは毎年変える予定
米をモチーフにしたラベルデザインは毎年変える予定
この日登壇した八海醸造の幹部とブルックリン・クラのメンバー
この日登壇した八海醸造の幹部とブルックリンクラのメンバー

※記事の情報は2025年4月3日時点のものです。

 

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

さけ通信ロゴ
  • 1現在のページ