【カシャッサ】 ブラジルの国民酒! その特徴や歴史、おすすめの飲み方
“カクテルベース”だけじゃない! 世界も注目しはじめたブラジリアンスピリッツ「カシャッサ」(別名:ピンガ、カニーニャ)とは? ラムとの違いはどこ? ブラジル文化に精通するプロに聞いた、現地ならではの飲み方もご紹介。知れば知るほどカシャッサの魅力に取りつかれること請け合いです!
ブラジルの国民酒「カシャッサ」
日本ではあまりなじみがありませんが、ブラジルでは“国民酒”として愛される蒸留酒で、カクテルのベースとしてだけでなく、近頃はウイスキーのようにカシャッサの味そのものを嗜まれることも増え、世界的にも注目が高まっているスピリッツなんだそうです。
この「カシャッサ」とは、どんな特徴や歴史をもったお酒なのか?
カイピリーニャの取材でもお世話になった、東京・池尻大橋にある「BAR Julep」のオーナーで、日本カシャッサ協会の会長でもある佐藤裕紀さんに詳しく教えていただきました。
カシャッサって、どんなお酒? 原料は?
「一言で説明すると、『サトウキビを原料にした蒸留酒』です。もう少し細かく言うと、『ブラジルで生産されたサトウキビを使った蒸留酒』が、カシャッサです」
――じゃあブラジル産のサトウキビでなければ、「カシャッサ」と呼べない?
「はい。2003年にできた法律で定められています。あと、先ほどサトウキビを原料に…、と言いましたが、正確には『サトウキビジュース100%』を原料にしなければならない、というルールもあります」
――同じサトウキビを使った蒸留酒としては、「ラム」もありますよね?
「そうですね。ラム酒の場合、①糖蜜から作るもの、②サトウキビジュース(搾り汁)から作るもの、③サトウキビシロップから作るもの、と3つの作り方があります。
それで、②のジュースから作るものを『アグリコールラム』って言うんですけど、これと『カシャッサ』が同じ作り方なんです。サトウキビジュース100%を発酵・蒸留させる、この点において一緒です。
もちろん細かいところで、酵母や樽、蒸留器の違いはあります。ただ、基本的な作り方としては、同じと言えますね」
知るほどに深い、カシャッサの歴史
「1500年代です。もともとカシャッサは、砂糖を作る工程で生まれた副産物でした。
はじめは砂糖づくりに従事させられていた黒人奴隷たちが飲んでいたんですが、そのうち奴隷を管理する人やその他の労働者たちも飲むようになって、一般大衆に広がっていったんです」
――砂糖づくりから生まれたお酒だったんですね。
「はい。製糖産業の発展とともに広まっていったお酒です。
製糖産業はブラジル北東部のバイーヤ州やペルナンブーコ州というところで栄えていたのですが、1700年代に入ると南東部のミナス・ジェライス州オウロプレットというところで金が発見され、ゴールドラッシュが起こります。
すると砂糖の生産者たちもみんな金の採掘のためにミナスに流れ、ブラジル経済の中心は北東部から南東部へ。人口の倍増と産業の発展により、結果カシャッサのマーケットも広がりました。今ではミナスは、カシャッサの一大産地になっています」
かつてゴールドラッシュに沸いたオウロプレットの街並み
カシャッサづくりが盛んなミナス・ジェライス州サリナス
チラデンテスという騎兵隊の将校が仲間を募って独立運動を起こそうとしたんですが、その時に彼が打ち出したスローガンが『独立の乾杯はポルトガルワインではなく、我々のカシャッサだ』というもの。
結局その独立運動は失敗に終わったんですが、彼の言葉がブラジル国民の心をつかんで、カシャッサがさらに一般大衆に広がったと言われています」
オウロプレットにあるブラジルの英雄チラデンテスの名を冠した広場
――そんな奥深い歴史が…。「ブラジルの国民酒」と言われている理由が分かったような気がします。
「そう。カシャッサは、ブラジルの歴史と切っても切り離せない、歴史とともに親しまれてきたお酒なんです。
だから、ブラジル国民がカシャッサというお酒に対してアイデンティティを持ち続け、結果2003年に法律もできたのだと思います」
カシャッサの種類は?
「カシャッサは地方によって色んな俗称があり、『ピンガ』もその中のひとつ。主にサンパウロで使われていました。
なにせブラジルは広い国なので、そのぶん俗称も多いのです。一説には500を超えるともいわれています」
――日本酒でいうところの「本醸造」や「純米」のように、カシャッサにはカテゴリのようなものはないんでしょうか?
「分類でいうと、カシャッサには大きく分けて『カシャッサ・インダストリアル』と『カシャッサ・アルティザナウ』の2種類があります。
『カシャッサ・インダストリアル』とは、大量生産を目的にしたカシャッサ。『カシャッサ・アルティザナウ』は、家族経営のような小規模生産のハンドメイドカシャッサのこと。『カシャッサ・アルティザナウ』のほうが規模が小さいぶん、味の個性を大事にして作られているものが多いです」
カシャッサは、現地でどう飲まれている?
「38~48度です。このアルコール度数についても、法律で決められています」
――強い…! これをストレートで飲む人っているんでしょうか?
「もちろん! ブラジル人はアルコールに強い人が多いので。冷凍庫でボトルごと冷やしてストレートで飲んだりもします」
――現地の方は、カシャッサを日常的に良く飲むんですか?
「好き嫌いはあると思いますが、街のバルでもよく飲まれています。
実はカシャッサは、蒸留酒としては世界で2番目~3番目に消費量の多いお酒なんです。それは圧倒的にブラジルの人が飲むからで、国内消費が9割以上と言われています」
――大衆的なお酒である一方、最近は嗜好性も高まってきているという話も聞きます。
「一昔前までは『労働者のお酒』というイメージが強かったんですが、1990年代後半くらいから生産クオリティが上がってきて、嗜好性の高いものも出てきています。
世界的なスピリッツコンペティションなどにも積極的に参加していますし、実際、輸出量も増えてきています」
――カシャッサの楽しみ方として「カイピリーニャ」はよく知られていますが、それ以外でおすすめの飲み方はありますか?
「フルーツやハーブ、コーヒー豆、スパイスをカシャッサに漬け込む『カシャッサパンチ/インフージョン』もおすすめです。日本でいう梅酒みたいな感覚で、ブラジルではよく作られています。僕のお店でも提供していますが、とても好評ですよ」
・・・・・・
「カシャッサ」というお酒について探る今回の取材、想像以上に奥深い歴史のあるお酒で、ブラジルという国と、そこに暮らす人々の生活や文化に根付いたものだということが分かりました。
まだまだ面白いエピソードや物語がありそうなカシャッサ、もっと詳しく知りたいという方は佐藤さんが会長を務める「日本カシャッサ協会」のHPをチェック! 協会では資格取得講座なども実施しているそうなので、ぜひこちらもチャレンジしてみてください。
「日本カシャッサ協会」のHP
▼日本カシャッサ協会・佐藤さんおすすめのカシャッサ銘柄はこちら!
この方に教えていただきました!
佐藤 裕紀さん
東京・池尻大橋にある「BAR Julep」オーナー・バーテンダー。日本カシャッサ協会会長のほか日本ラム協会理事もお務めで、カシャッサやラムの楽しさを体験できるイベントも多数企画。もともと大のブラジル好きで、お酒まわりだけでなくブラジルの音楽や文化にも精通している。
※記事の情報は2019年8月4日時点のものです。
- 1現在のページ