白央篤司のつまみ暦vol.1~たけのこをつまみに一杯~
フードライターの白央篤司さんが、ショートエッセイと共に季節の晩酌をお届けする「つまみ暦」。今回は春の晩酌をテーマに、旬のたけのこを使った、白央さん流の家飲みの様子を綴っていただきました。

酒卓に春来たる
妊婦さんが急に産気づき、周囲は慌てふためく。母親や祖母的なポジションの人が男たちに「とにかくお湯っ、お湯をたっぷり沸かして!」なんて指示するようなシーンを。
私は毎年、京都の八百屋さんに頼んでたけのこを送ってもらっているんだが、たけのこが届くたび、先の「とにかくお湯っ! お湯を沸かせ!」という指令が脳内をめぐるのである。
他の作業やしめきりなんぞ一旦置いて、「ともかくたけのこを早くゆでなければ!」という思いに駆られる。たけのこは時間が経つほどえぐみが増し、おいしさが損なわれてしまうからだ。すべてを投げ出し、さあ急げ、やれ急げと慌てるのは春の恒例、同時にちょっと楽しくもある。
いつもはパスタをゆでる大鍋にたっぷりの水を入れ、強火にかける。京都は樫原産のたけのこを箱から出し、皮をむく。ごつごつした皮からだんだん、つるんとした皮に変わって、触り心地がいい。ああ、遠路はるばるよう来たのう…。掘りたて直送だからか、こちらのたけのこはただ水からゆでればいい。米ぬかや鷹の爪は不要なのだ。
沸いたら弱火にして40分ほど煮たのち、水にさらしておく。少し切り分け、味見タイム。うーん…いいじゃないの、いいじゃないの。香ばしくて、たけのこ特有のえぐみも極ほんのりと残せた。えぐみが全然ないと面白くない。「やったね!」と、誇らしい気持ちになる。さあ、どんなつまみにしてくれようか…と迷う時間に、私は春の醍醐味を感じる。

たけのことそら豆とベーコンのクリーム煮
下準備そら豆を下ゆでしておき、うす皮をむいておく。たけのこはひと口大に切り、ベーコンは厚めに切る。
作り方
1.軽くフライパンでベーコンを焼き、そら豆とたけのこを加え、ひたるぐらいに鶏がらスープを加えて5分ぐらい煮る。
2.生クリームを加えて、ふつふつと煮えてきたら味見して、塩適量を加える。盛って仕上げに黒こしょうを好みで挽く。
たけのこはベーコンとかパンチェッタと相性がとてもいい。動物性のしっかりしたうま味とたけのこ、お互いのよさを引き立て合う。生クリームがなければ、バターと牛乳で代用してもいい。皿に盛りつければ、そら豆の若緑色、たけのこの乳白色、ベーコンの桃色が並んで、なんともはなやかだ。そんな食卓に自分の目が喜ぶ。
合わせるお酒なら、断然白のスパークリングワインだ。そら豆のほろ苦さ、たけのこの風味にベーコンの軽い燻製香を含んだクリームをさらっと洗い流しつつ、それぞれのおいしさを膨らませてくれもする。「春が来たーッ!」というめでたさを祝う意味でも泡はいい。手頃なとこだと、ローソンで売られている1500円前後のスパークリングワインがなかなかおいしく、たまに買っている。
さて、残りのたけのこはどうしようかなあ。照り焼きにして粉山椒ふって日本酒を開けるのもいいし、白身魚に大葉も加えて春巻きの具にすればビールのつまみに最高だ。青のりを入れた衣で天ぷらにするのもいい。シメはやっぱりたけのこごはんで…と、あれこれ想像するのが、春の至福の時間なのである。
〈つまみ暦 vol.1 春編 おわり。次回は初夏の頃に。〉
おまけにもう1品:春キャベツ入りのサラダ

春キャベツは生でかじってもいいけど、加熱してクタッとさせ柔らかくし、その甘さを楽しむのもおすすめ。量もたっぷり食べられる。
※左上に写ってる茶色いのは、うちの愛猫・たま子さんの後頭部です。
※記事の情報は2025年4月25日時点のものです。
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